日本の上場企業が株主アクティビズムに備えるためには
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2024年2月13日
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日本の上場企業の業績に対する監視の目が厳しくなっている背景には、政府の新たな規制と、アクティビストに利用されつつあるグローバルな投資家層の拡大がある。
岸田内閣が最近発表した「新しい資本主義」政策は、日本の上場企業を海外と日本の投資家双方にとって魅力的な投資機会とすることに重点を置いている。1 この努力の一環として、日本はまた、日本版個人貯蓄口座(NISA)を見直し、この制度に基づくすべての投資を投資家の生涯にわたって非課税とすることで、安定的かつ確実なリターンを確保しようと努めている。また、東京証券取引所は、投資家のリターン向上に役立つ資本管理と株価の最適化に向けた計画を開示した上場企業のリストを毎月公表し始めた。2 日本におけるアドバイザーや企業との面談で耳にしたように、日本の上場企業には、自分たちを取り巻く環境が変化する中で、新しいアプローチを試みる用意と意欲がある。
日本の上場企業の投資家層を見ると、グローバルな投資家層が少なかった時代から、現在では米国、欧州、英国の投資家が平均30%を占めるまでになった。3 このような投資家層の変化に伴い、日本企業の取締役会の構成はどうあるべきか、株主資本利益率のあるべき水準はいかほどか、伝統的なコングロマリットが株主価値を高める最良の方法なのか、といった新しい議論が惹起されている。取締役会の独立性と在任期間については、国際的な投資家たちの期待が(それ以外の投資家と)異なる分野である。これらのグローバル株主は、取締役会は自分たちの利益を第一に考えるべきという観点から、より積極的な株主価値の最大化を求めるだろう。日本の上場企業は、彼らのIR戦略が魅力的で迅速なものとなっているかを確認すべきである。
マーケットにとって好ましい規制強化と共にグローバルな株主からの注目が高まる中、 アクティビストが企業の潜在的価値を実現させることを目的とした洗練されたキャンペーンを展開するには都合の良い環境となっている。日本のメディアはアクティビストのキャンペーンに対して寛容的となっており、アクティビストのキャンペーンはメディアをツールとして活用し、より洗練されたものになりつつある。アクティビストは、金融メディア、投資家、個人株主、政府関係者から支持を集めるために、メディアを利用してメッセージをターゲットとなるステークホルダーに届けようとすることが増えている。
日本の上場企業は、メディアと迅速に関わるための緊急時対応策を予め準備しておくべきである。
このようなアクティビズムの高まりに伴い、ISSやグラスルイスといった議決権行使助言会社の役割は益々、重要になっている。ISSやグラスルイスは、日本の株主にとってはあまり認知されていないが、米国、英国、欧州の投資家、その内、特に新しい市場に投資を始めたばかりの投資家には重用されている。ISSにおいては、2024年に向けてROE方針を復活させ、日本の取締役会に対する投資家リターンを促進するための監視の目が強まっている。取締役会が株主の最善の利益のために行動していることを示すためには、株主提案などが懸念される或いは既に為された状況下において、議決権行使助言会社と対話することが重要である。
また、取締役会が検討しなければならないことは、自社の事業内容や財務的な検討に留まらない。 周知の通り、ESGアクティビズムは増加傾向にあり、今後もその重要性が高まることが予想される。 国連の責任投資部門であるUNPRIは、5,300以上の署名者と121兆米ドルの資産運用額を誇り、日本に照準を合わせているようだ。同組織は、環境および社会的な懸念を含む責任投資課題を推進するために、加盟国が協調して行動している。同組織は最近、日本へのリソースを増やし、最後の年次総会を東京で開催したほか、ネット・ゼロへの経済的移行に関する初の詳細な報告書の対象先として日本を選んだ。このような投資家は、純粋に金銭的な懸念に突き動かされているわけではなく、
むしろ長期的なリスク軽減を重視している。FoE(Friends of the Earth)は、化石燃料や原子力発電などに焦点を当てたキャンペーンを展開し、既に日本での足場を固めている。ESG政策を考える際、グローバルな投資家の支持を得るためには、明確なデータと目標を持って活動を示すことが重要である。
日本では国際的な投資が増え続けており、アクティビズムは2024年には、より一層大きなトピックになる可能性が高い。日本の上場企業はアクティビストの主張に対して後手に回らないために、 プロアクティブなアクションが益々必要な状況にあると考えられる。
詳細については、野尻 明裕(シニア・マネージング・ディレクター)または菊地 秀行(マネージング・ディレクター)までお問い合わせください。
Footnotes:
1: Gearoid Reidy and Yuko Takeo, “A Quiet Ex-Banker Shocks Markets With ‘Socialist’ Tilt in Japan,” Bloomberg (June 1, 2022)
2: Clement Tan, “Japan wants higher returns for investors — here’s what it’s doing,” CNBC (January 12, 2024)
3: Kensho Motowaki, “Japan companies raise 30% more capital from overseas stock offerings,” Nikkei (April 24, 2024)
出版
2024年2月13日